ナスの葉が白くなる症状──ナスうどんこ病の診断と防除
- 秋介 永田
- 3 日前
- 読了時間: 6分

ハウスや露地のナスで「葉が白っぽい」「粉をふいたように見える」と感じたら、まず疑うのがうどんこ病です。
初期は点状の白い菌糸から始まり、やがて葉一面・茎・果実にも拡大し、光合成低下→株全体の生育不良→収量・品質低下につながります。
本記事では、現場で判別しやすい診断ポイントと、発生初期に間に合う応急処置・薬剤ローテーション・環境改善(IPM)を、失敗しがちな注意点まで含めて整理しました。読後すぐに診断→対応まで進められる実用ガイドです。
1. 症状チェック|葉が白いの特徴
観察部位 | 初期症状 | 進行症状 |
---|---|---|
葉(主に下位葉から) | 霜が降りたような白い粉状のカビ(菌糸)が点在 | 白色部の面積が葉全体に拡大、葉が黄化→萎凋→落葉 |
茎・葉柄・がく | 白いカビの被覆 | 白色部の面積拡大 |
果実 | がく周辺に粉状被覆 | 外観不良・品質低下で出荷不可能 |
ポイント:
①指でこすると白粉が付く(殺菌剤の乾固や石灰の付着との判別)、②下葉から上葉へ進行、③低~中湿・過繁茂・風通し不良で悪化。類似症状(ハダニ、すすかび病、薬剤の乾固)との違いを次章で確認。


2. 考えられる原因(病害虫)一覧
病害・要因 | 典型症状との一致度 | 発生環境 | 確認ポイント |
うどんこ病 | ★★★ | 施設:一年中、露地:夏~秋、過繁茂・通風不足 | 擦ると粉が付く/葉表優先→上葉へ進展/がく・茎にも白い被覆 |
すすかび病 | ★★☆ | 多湿条件 | 初期は葉裏の白カビ小斑→灰褐色すす状 |
ハダニ類加害 | ★☆☆ | 高温・乾燥 | ルーペで観察。白いかすり状斑点と微細なクモ糸、こすっても粉は付かない |
薬剤・肥料の乾固(炭酸水素塩、石灰、硫黄等) | ★☆☆ | 散布直後~乾燥時 | 白い斑が均一に付着しがち、数日で薄れる/新葉への拡大なし |
3. 対策ガイド
3-1. 緊急措置(24時間以内)
発病葉の除去:株元で切り、袋に密封して圃場外で処分。
伝染源の抑制:古葉・枯葉の回収、落ち葉の除去、潅水チューブ・支柱も拭き取り。
風通しの即時改善:側窓・天窓を開け、葉が触れ合う箇所を軽く摘葉して空間づくり。
発病初期の薬剤散布:後述の異なる作用機構の薬剤を7日間隔を目安にローテーション。展着剤の使用可否についてはラベルに従う。
3-2. 環境調整(IPMの基礎)
管理項目 | 内容 | 効果 |
通風・採光 | 過繁茂回避・摘葉・風路確保 | 葉面乾燥を促し、日照不足を解消することで、病勢進展を抑制 |
湿度管理 | 日没前に換気し夜間の結露を回避 | 感染誘発となる夜間高湿を避ける |
罹病残渣 | 栽培期間中は都度撤去 | 胞子源低減 |
※補足:うどんこ病は低~中湿でも進展する一方、夜間の高湿(結露)が感染の引き金になりやすい。日中と夜間のメリハリを意識。
3-3. 生物的防除・微生物農薬
ボタニガードES(微生物殺虫・殺菌):野菜類のうどんこ病に適用、害虫と同時防除も可能。ラベルに従い発病初期に反復散布。
天敵利用との両立:硫黄剤や一部殺菌剤はカブリダニ類に悪影響が報告あり。ハダニ対策でチリカブリダニ等を使う場合、影響の少ない薬剤への切替・散布間隔を確保する。
3-4. 化学的防除(代表例/最新ラベル要確認)
商品名 | 有効成分 | 希釈倍率の目安 | 散布適期 | 備考 |
ダニコール1000 | テトラクロロインソフタロニトリル | 1000倍 | 発病初期~予防 | 作用機構が異なる剤とのローテーション推奨 |
パレード20フロアブル | ピラジフルミド | 2000~4000倍 | 発病初期 | 菌核病・すすかび病にも適用あり(ナス) |
アミスター20フロアブル | アゾキシストロビン | 2000倍 | 予防~初期 | 広範囲の病害に有効。ローテーションに組み込みやすい |
カリグリーン | 炭酸水素カリウム | (野菜類)800~1000倍 | 治療寄り(初期) | 有機JAS適合の資材区分。ミツバチ等への影響が小さい |
注意:
登録内容・使用回数・希釈倍率・収穫前日数は作型・地域で異なるため、必ず最新ラベルと地域の防除暦を確認してください。同一系統の連用は避け、作用機構(FRAC)を替えてローテーションしましょう。
4. 予防と管理のチェックリスト
☐ 定植前:苗の健全性確認(白い粉状付着の有無、持ち込み防止)。
☐ 栽培中:下葉整理・過繁茂回避(葉が触れ合う箇所をこまめに解消)。
☐ 日没前換気:夜間の結露回避(窓開閉・循環扇の活用)。
☐ 残渣衛生:落ち葉は袋詰め廃棄、圃場内に放置しない。
☐ 薬剤:作用機構を替えるローテーション表をベンチに掲示。
☐ ハダニ監視:黄化・白かすり斑を見たらルーペで確認(ダニ多発はうどんこ病悪化の間接要因)。
5. 失敗しがちなNG例
初発を見逃して予防散布を後回し → 一気に面積拡大、ローテション散布でも追いつかない。
同系統薬剤の連用 → 耐性リスク増大、効果不安定化。
過繁茂+夜間無換気 → 感染→進展のスパイラル。摘葉と日没前換気で断ち切る。
天敵導入直後に硫黄剤等を散布 → カブリダニに悪影響、ハダニ再爆発。
6. FAQ
Q1:葉が白いのは本当にうどんこ病?
A: 指でこすると粉が指に付着し、下葉から上葉へ広がるならうどんこ病の可能性が高いです。白い粒が均一に付く・数日で消える場合は薬剤や石灰の乾固かもしれません。疑わしければルーペで菌糸の有無を確認しましょう。
Q2:最初に何をすれば良い?
A: 第一に予防の薬剤散布、過繁茂解消、換気を行いましょう。病害の発生が確認された場合は、発病葉の回収・密封廃棄、発病初期の薬剤散布などの対策を講じましょう。
Q3:どの薬剤を使えばいい?
A: 化学的防除の項目で挙げた薬剤や他の登録のある剤を作用機構を替えて使います。最新ラベルと地域の防除暦を必ず確認。
Q4:有機や天敵を使っているが併用は?
A: 硫黄剤や一部殺菌剤はカブリダニに悪影響の報告があります。天敵放飼の前後2週間は散布を避ける等、資材間の適合性を事前に確認してください。
7. まとめ
ナスの葉が白い=うどんこ病の可能性が高く、初発の見極めと迅速対応が収量を守る鍵です。指でこすると粉が付く、下葉から上へ広がる、過繁茂や通風不良で悪化——これらが揃えば即対応を講じる必要があります。
発病葉の密封廃棄→日没前換気→登録薬剤のローテーションを基本に、圃場の衛生管理と発病を抑える環境づくりを徹底しましょう。天敵や有機資材を併用する場合は相互影響を確認し、資材間の相性を考えたIPMで持続的な防除を行いましょう。